2018年7月9日月曜日

【学問のミカタ】裁判員って何をするの?

今回の【学問のミカタ】ブログは、現代法学部の高平奇恵からお届けします。

 「呼出状」は突然やってくる

 裁判員制度とは、国民が、裁判員として刑事裁判に参加し、被告人が有罪かどうか、有罪の場合どのような刑にするかを裁判官と一緒に決める制度です。
 裁判員の候補者は、選挙人名簿からくじで選ばれます。ですから、選挙権のある人には、ある日突然、裁判所から呼出状が来るかもしれません。
 呼び出された裁判員候補者は、裁判所で質問を受けるなどし(選任手続)、裁判員が決まります。
裁判員裁判は、殺人や傷害致死、強盗致傷などの重大な事件を対象としています。もしかしたら、この記事を読んでいる人の中には、そんな事件の裁判員をするのは怖いな、とか、本当に自分にできるのかな、と思う人もいるかもしれません。
でも、そんな風に思ってくれる人に、裁判員になってもらうことが、この制度の重要な意義のひとつだと考えています。なぜなら、人を裁くことへの恐れがなければ、適切な判断はできないからです。












私の弁護士バッジです。外側は金メッキなのですが、剥げて銀色になってきています。
新人だと思われないように、わざとメッキを剥がす人もいるんですよ。



裁判員制度の特徴

 裁判員制度が始まったのは、2009年です。実は、比較的新しい制度です。裁判員制度の特徴は、国民の中から選ばれた裁判員が、法律の専門家である裁判官と一緒に被告人が有罪か無罪か、有罪の場合にはどのくらいの刑にするのかを決めることにあります。裁判官は法律の専門家ですが、裁判員と裁判官は判断者として対等の立場です。裁判員が裁判官と一緒に刑事裁判の手続に関与することは司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資する、というのが法律に書かれている裁判員制度の意義です。
 司法に対する国民の理解の増進や信頼の向上は、もちろんとても大切です。しかし、それにとどまらない重要な意味が、裁判員制度にはあると考えられます。
 それは、いろいろな意見が、裁判に反映されることです。様々な経験や知識を持った裁判員が意見交換をすれば、より慎重で、そして質の高い判断につながるのではないでしょうか。刑事裁判は、人が罪を犯したのかどうか、犯したとすればどのくらいの刑にするのかを決めるものです。裁判の結果は、その人の自由や、場合によっては生命を奪うという重大な結果をもたらすものです。裁判が間違うことができるだけ少なくなるよう、裁判員になった人には、この社会の一員として、ひとつひとつの事件に真剣に向き合い、議論することが求められているのです。
 










裁判員裁判の導入をきっかけに、法廷弁護技術の研究が進んでいます。





刑事裁判の原則

 皆さんは、事件で誰かが逮捕されたという報道に接したとき「犯人が捕まったんだな」と思ってしまっていませんか?逮捕された段階ではまだ「被疑者」疑いをかけられている人にすぎません。その人が、疑われている犯罪を実行したのかどうかは、裁判で認定されることになります。
 逮捕された時点で、その人を「犯人」だと思ってしまう、そう扱ってしまうことはとても危険です。捕まった人が犯人だという前提でいろいろな事実を見てしまうと、誤った判断につながる可能性が高まります。そして、本当は犯人でない人が有罪にされれば、その人の人生は大変な影響を受けます。死刑の場合には命が奪われてしまいます。また、真犯人が罪を免れることにもなります。冤罪は、とても深刻な結果をもたらすのです。
 このような冤罪の発生を防ぐために、刑事裁判には多くの重要な原則があります。ここで、ふたつほどご紹介します。まず、検察官が被告人の有罪を証明する責任を負うこと、すなわち、検察官が被告人が有罪であることを証明できない場合には、無罪の判断がなされるということです。そして、検察官は被告人が有罪であることについて「合理的な疑いを容れない程度の立証」をしなければなりません。裁判では、不確かなことで人を処罰することは許されませんから、証拠を検討した結果、常識に従って判断し、被告人が起訴状に書かれている罪を犯したことでは間違いないと考えられる場合に、有罪とすることになります。逆に、常識に従って判断し、有罪とすることについて疑問があるときは、無罪としなければならないのです。
 もし、皆さんに呼出状が来て、裁判員になる機会が訪れたら、是非裁判員になってみてください。そして、刑事裁判の原則を踏まえつつ、精いっぱい事件に向き合い、意見を交換し、結論を導いてほしいと思います。






【学問のミカタ】
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