2017年9月28日木曜日

【学問のミカタ】法律におけるたった“2„の違いーー18歳選挙権から考える


2017.9.15 OBによるアドバイス(公務員)

みなさんこんにちは。

第2学期もスタートして1週間たちました。大学が賑やかになるといいですね、「これぞ大学!」と言う感じがします。
みなさん楽しい夏休みを過ごしましたか?

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さて、今日は【学問のミカタ】。今回は今年着任した野村 武司先生です。

野村先生の写真を探しましたが…ないないないっ!
そういえばあまり野村先生のことは知らないなぁと今更思いました。ゼミから追ってみましょう。


「社会・法学入門概要」(1年2期のゼミ)では、今年の野村先生の授業テーマは「権利保障と自治体法政策」です。主に「子どもの権利保障」に焦点を当て、公共政策(自治体法政策)を権利保障の観点からみることで、行政と市民生活とのかかわりを知り、行政や法のありかたに対する見識を深めることを目標としています。法制度を学び、それに基づいた法の現場を見学するなどして、グループワークや個人研究を行います。
身近な問題から法律を知り、法の問題に気づき、2年次基礎演習に繋ぎます。


「基礎演習Ⅰ・Ⅱ概要」(2年生ゼミ)では、授業テーマは「争いごとからみる行政と法」。行政に関わる紛争を素材に、法律学の学修を進めます。目を養う、法令を調べる、法解釈を知る・してみる、法律関係はどのように生じるか、紛争はどのように解決されるか、などを学び、最終的には自分で事例を解決してみる、で終わります。
3・4年次「演習」への足固めですね。


そして3・4年次「演習」。野村先生のご専門から「市民生活と行政法」をテーマに学生の皆さんは研究を進めています。
4年になったら是非「卒業研究」を完成して卒業しましょう。


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そんな野村先生は、今回は「18歳選挙権」をテーマに寄稿してくださいました。世の流れ的に近々選挙がありそうですね~ではどうぞ!

【NHK NEWS WEBへ】 政府 衆議院解散を閣議決定 本会議で解散へ
【東京新聞へ】衆院解散、総選挙へ 消費税、憲法が争点
【朝日新聞デジタルへ】衆院解散を閣議決定 首相官邸で臨時閣議

【学問のミカタ9月】


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法律におけるたった“2„の違いーー18歳選挙権から考える


「おとな」を感じるとき
みなさんが、「おとな」になったなぁと思うのはどんなときでしょうか。大学生になったとき、実家を離れて一人暮らしをするようになったとき、お酒を飲めるようになったとき、人によりいろいろあるかと思います。選挙で自分の一票を投票できるということに、おとなを感じる人もいるのではないでしょうか。これまで、その境目は、(標準的な大学生を前提にすると)大学生になってからということでしたが、これが現在では、高校生世代にその境目がやってくることになりました。いわゆる18歳選挙権です。


18歳選挙権――公職選挙法改正による「ー2(=マイナス2)」
これは、2015年の6月17日の公職選挙法の改正によってそのように決められ、その初めての国政選挙が2016年7月10日に行われました。今、大学生の人には、このときにはじめて選挙をしたという人もいるのではないでしょうか。18歳、19歳の人の投票率(あわせて、46.78%)は、全体の投票率(54.70%)よりは低かったけれど、年齢幅が違うので単純には比較できないけれど、20~24歳(33.21%),25~29歳(37.91%),30~34歳(41.85%),35~39歳(46.37%)のいずれの年齢層よりも高かったと報じられており、この年代に期待が寄せられました。
ところで、この18歳選挙権、公職選挙法ではどのように定められたのでしょうか。総務省のホームページに法律の新旧対照表がでていて、それがわかりやすいので、それをみてみましょう。
下段が改正前、上段が改正後で、改正された部分に線が引いてあります。それをみてみると、要するに、「満二十年」が「満十八」に、それと一つだけ、「未成年者」が「年齢満十八未満の者」に変わっただけであることがわかります(※「但し」が「ただし」に変わった部分がありますが、それはついでに表記をそろえただけです。)。


どうして「ー2」?――憲法改正がそこにある
ところで、どうしてこうなったのでしょう。実は、18歳選挙権の話は、1980年代後半当たりから、なんとなくありました。ところが、賛成する人もいれば、賛成しない人もいてそのままになっていましたが、これが一気に進んだ背景には、2014年の日本国憲法の改正手続に関する法律、いわゆる国民投票法の改正があります。
この法律は、憲法の改正について憲法(96条)は定めているけど、具体的な手続を定める法律がないということで、2007年に作られた法律です(2010年施行)。その3条で、「日本国民で年齢18歳以上の者は、国民投票の投票権を有する。」としたのはいいのですが、これまで未成年が国政選挙等で投票した経験がなくちょっと不安だったのでしょう(18歳、19歳の人が約240万人もいる!)、法律の附則で、18歳から20歳未満の人が国政選挙に参加できるように整えることとし、それまでは20歳ということにしておきましょうとしたわけです。
ところが、それ以降も、法律の条文には18歳と書いてあるのに、附則でこれを妨げているという中途半端な状態のままになっていたところ、憲法改正に前向きな政権が事態を進めようと、2014年の法律改正の際にこの附則を削除し、国会の附帯決議として、「改正法施行から2年以内をめどに、選挙権が得られる年齢を18歳以上に引き下げる法制上の措置を講じる」としたことから、今回の公職選挙法の改正に至ったということになります。


どうして「-2」?――若者と政治参加
もちろん、それだけではありません。若者が何歳から、政治参加すべきか。そんな議論が底流にあります。公立国会図書館調査及び立法考査局が出している『レファレンス』の2015年12月号に、「諸外国の選挙年齢及び被選挙権年齢」(145頁以下)という資料があるので、それを見てみましょう。

http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_9578222_po_077907.pdf?itemId=info%3Andljp%2Fpid%2F9578222&contentNo=1&__lang=en

ちょっと前の日本のように、選挙権(下院)について、20歳あるいはそれ以上としているところを探してみると、オマーン(21歳)、カメルーン、クウェート(21歳)、コートジボワール(21歳)、サモア(21歳)、シンガポール(21歳)、台湾、トンガ(21歳)、ナウル、バーレーン、マレーシア、レバノン、そんな国の名前が挙がっています。逆に、18歳より低いところもあるようです。アルゼンチン(16歳)、インドネシア(17歳)、エクアドル(16歳)、オーストリア(16歳)、キューバ(16歳)、朝鮮民主主義人民共和国(17歳)、ニカラグア(16歳)、東ティモール(17歳)、ブラジル(16歳)、などとなっています。そうすると、それ以外は18歳ということになりますが、数でいうと、167カ国88.4%が18歳で、いわばスタンダードになっています(19歳以上は13カ国6.9%、18歳未満は4.8%)。
 こうした選挙年齢は、各国の事情により決まるところもあると思いますが、196カ国が批准をしている「子どもの権利条約」で、子どもを「18歳未満のすべての者」をしていることも大きく影響しているのだと思います。子どもは、完全な権利の享有主体であるけれども、固有の権利保障が求められるということから、逆に制限を受けている部分もあります。選挙年齢などはその一つだと思いますが、子どもの年齢を卒業したら、おとなとして選挙・政治参加できるというのは当然のことでもあり、18歳がそのがスタンダードになっているともいえるでしょう。その意味で、18歳選挙権が政治日程に上ったときに、憲法改正に賛成しようが反対しようが、どちらからも反対する理由はなく、全会一致で可決されたのだろうと思います。


その「2」が及ぼす影響
 その「2」!選挙権だけでみていると、「そうだ、そうだ」ということになりそうですが、一方で、いろいろなところに波紋を投げかけています。
 一番動揺したのは、学校現場かもしれません。わが国では、学校に通っている児童生徒が、政治活動や政治的発言をすることをあまりいいと思わない風潮もあり、政治教育、政治活動にはすごく敏感で神経質である学校現場が多いように思います(私は、これをやらない、認めないというあり方には疑問を感じています。)。また、公職選挙法に、年齢20歳の者(現行法は18歳の者)は、「選挙運動をすることができない。」(137条の2)などと規定されたりもしているため、ますます何かいけないことかのように理解されていた節があります。ところが、18歳選挙権になると同時に、高校の中で、選挙権を持つ者と持たない者が混在することになります。選挙権を持つ者が、選挙運動ができないというのはあり得ない話ですから、高校の現場では、「これは困った」と、頭を抱えた校長先生なども多かったのではないでしょうか。また、もう少し冷静な受け止めとしては、高校では、18歳になったときから、生徒は投票ができるようになるわけですから、そのために、18歳になる前から、(今まで避けてきた)政治教育をちゃんとやらなければという受けとめもあったように思います。新聞の見出しとして、「教育現場の中立性論点に」などというのがあったくらいですから(朝日新聞2015年3月6日)、学校現場に波紋を投げかけたというのはあながち大げさな言い方ではないように思います。

 他にもあります。子どもの権利条約では、子どもを18歳未満としているのだから、18歳になれば、他の場面、いや、全ての場面で、「おとな」としての扱いでいいのではないかという議論です。実は、「おとな」か「子ども」かを問題にする規定のしかたとしては、二つの定め方があります。わが国では、おとなのことを、「成人」といい、成人になる年齢のことを「成年」ということがあります(「成人」というのは、人に成るという意味で、なんか、子どもは人でないみたいで、「何かなぁ」と思ってしまいます。)。民法は、これを「年齢20歳をもって、成年とする。」(第4条)と、一般的に定めていて、子どもかおとなかについて、この規定に連動させている定め方です。
 みなさんは、携帯電話を契約しようとしたとき、「未成年者は保護者の同意が必要です。」といわれた経験はありますか?それは、民法5条の「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。」に根拠があります。同じ民法の世界なので、当然といえば当然なのですが、成人年齢の規定、つまり成年を「18歳」としてしまえば、18歳になれば、保護者の同意なく、携帯電話を含むいろいろな契約ができることになります。同じようなものとして、「未成年者は、勝馬投票券を購入し、又は譲り受けてはならない。」(競馬法28条)、「未成年者は、舟券を購入し、又は譲り受けてはならない。」(モーターボート競争法)などがあります。こうした規定の場合、民法の成年規定が、20歳未満から18歳未満に変われば、これに連動して変わることになります。つまり、成人年齢が、20歳から18歳に変われば、18歳でも馬券や舟券を買うことができるということになります。民法の成人規定をおいそれといじれないのには、「(例えば)それはまずいんじゃないの」という意見も多いからです。

 これとは別に次のように規定されているものもあります。大正時代にできた法律ですから表現はちょっと古いのですが、「満二十年ニ至ラサル者ハ酒類ヲ飲用スルコトヲ得ス」(未成年者飲酒禁止法1条)というのがあります。法律の名称としては、「未成年者・・・」となっていますが、このように満20歳とはっきり定めているので、民法の成年規定が変わっても影響を受けないことになります。「満二十年ニ至ラサル者ハ煙草ヲ喫スルコトヲ得ス」(未成年者喫煙禁止法1条)も同じです。ですから、民法の成年規定が変わっても、18歳になったからといってお酒が飲めるわけでも、たばこが吸えるようになるわけでもありません(ちなみに、ドイツやフランスでは、ビール、ワインならば16歳から飲めます。)。「おとな」を感じるときの一つとして、お酒が飲めるようになった、たばこに吸えるようになったということを挙げる人も多いかと思いますが、民法の成年規定が変わっただけでは可能になるわけではありません。当面、これを変えるべきだという議論にはなっておらず、むしろ健康上変えるべきでないとの意見が多いようですが、議論のあるところです。

 もう一つ挙げておきましょう。少年法の規定です。少年法2条では、「この法律で「少年」とは、二十歳に満たない者をいい、「成人」とは、満二十歳以上の者をいう。」とされていて、上でいうと後者の形ですから、民法の成年規定が変わっても、自動的に変わることはありません。少年法の適用がないということになると、刑事手続において刑法に基づいて、いわば厳罰に処せられることになるのに対して、少年法の適用があるということになると、その処分は、少年の可塑性を信じて、罰ではなく、保護のためになされるということになります。本来、これは成年規定に連動しないというのはみたとおりですが、近年の厳罰化の意見の中で、民法の成年規定の見直しに便乗する形で、少年法の適用年齢を18歳に引き下げようという議論があります。


法律の文言は社会における利害の結晶――法律を学ぶ皆さんへ
 こうした意見の相違や対立に、みなさんも、いろいろな意見をもっていることでしょう。それは是非考えてもらうとして、法律の文言には、このようにたった“2„のことであっても、さまざまな利害がかかわっていて、あるいはいろいろな意見があって、これを動かすことでさまざまな影響が出るということは意識しておく必要がありそうです。
法律の文言は、なんか堅苦しい、つまらないものようにもみえますが、実は、法律の文言の一つ一つが、実は社会における「利害の結晶」であり、次の動きへとつながるエネルギーを持ったものだともいえます。法律を勉強するということは、こうした社会の利害や意見の違い、社会関係に深くつながることにもなります。
現代法学部で学ぶ皆さん!そんな観点をもって、想像力豊かに、法律を通じて社会を見、社会に興味を持ちながら、法律を学び、さまざまに生起する事件や問題を法的に考えてみてください。


(現代法学部教授 野村武司 記)


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野村先生ありがとうございました!
ではまた次回。