先日の台風は大丈夫でしたか??
8月も後半に差し掛かりました。暑さはまだまだ続きますが、
夏バテに気をつけて過ごしましょう。
さて、今月の学問のミカタは、現代法学部は和泉澤 衞先生が書いてくれました!
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1.世界で最初の株式会社は?
会社といえば「株式会社」が思い浮かびますが、世界初は1602年に設立された「オランダ東インド会社」です。
それにしても、“なぜ”生まれたのでしょうか。
当時は中世ヨーロッパの大航海時代のころで、大型帆船を建造・運営して東アジアと交易することは莫大な利益をもたらしますが、一方で海難(難破・海賊)などの危険もあります。
個人商店で大規模な商売はできません。大きな資金と組織が必要です。また、見込まれる利益(リターン)が大きければその分リスクも大きくなります。
アムステルダムの東インド会社造船所。科野孝藏「オランダ東インド会社の歴史」同文館・1988年 |
一回の航海ごとに必要な元手(資金)を集めて、無事に帰還すれば儲け(利益)は山分け・配当するが、海難で失敗すれば投入した資金はフイになるばかりか場合によっては事業の主宰者として損害賠償もしなければならない、というシステムでは長続きしません。
ビジネスではなく、ギャンブルのようなものですからね。
したがって、その事業計画に資金を出す側の立場として、融資(お金を貸して返してもらう)ではなく投資(リスクを承知で出資すること)なのは分かっているが、成功して儲かった場合にはきちんと利益を配当し、失敗して損失が生じた場合でも責任はその出資金分以上は負わない、という仕組みを設ける必要がありました(「有限責任」といいます)。
さらに、一回限りの航海で清算・解散するのではなく、同様の事業を反復継続的に行っていくことにすれば、より都合がよいことになります。
こうして、ポルトガルやスペインなどの列強諸国の国営船団に対抗すべく、オランダ国内の貿易商を連合するようにして、出資者である多数の「株主」と事業運営を任される少人数の「役員・重役」(取締役)というビジネスのための組織体である「株式会社」が形成されたのです。
社名はその頭文字をとって略称“VOC”、取締役会は“17人重役会” と呼ばれました。
東インド会社の17人重役会。科野孝藏「オランダ東インド会社の歴史」同文館・1988年 |
2.そのころ日本は?
1600年代初頭ですから、関ケ原の戦いを経て江戸幕府の時代ですね。
オランダとの交易はいわゆる平戸貿易でスタートしますが、その後ご存知のとおり鎖国政策が採られ、外国通商は長崎(出島)で相手もオランダのみと制限されていきました。
また、江戸時代は、西欧からの学問も「蘭学」中心となっていきます。
出島オランダ商館。科野孝藏「オランダ東インド会社盛衰史」同文館・1993年 |
3.日本語の「会社」の語源って?
「会社」は、蘭学書を翻訳する際に用いられた和製の造語で、当初は広く団体とか集団一般のことを示していたようです。
西洋の商事会社組織を紹介する本が登場するのは江戸末期になってからで、「今日ではその二文字で法律的にも動かすべからざる新語(用語)」となったのは明治期以降です(石井研堂「明治事物起源・増補改訂版」春陽堂・1934年・下巻853頁)。
そういえば、「社会」という言葉も、英語のsocietyの訳語として新聞に紹介され定着したのは明治8年(1875年)以降とのことで、それまで「社会」のことは「世間」とか「浮き世」とか呼んでいたとか。
それにしても、新しい言葉を造りだすという先人達のご苦労は並大抵ではなかったと頭の下がる思いです。
もっとも、現代では、説明しにくい横文字の言葉を、カタカナでそのまま表現するという荒業?も通用するようで、個人的には(大学の先生としては)、住みやすい世の中なのかもしれないな~とちょっと安心しています。
でも、“なぜ”を考えることは、常に新しい発見につながりますね。
4.おわりに
「会社」については、日本に会社はいくつあるのとか、株式会社を設立するのに資本金はいくら必要なの(答えは1円)とか、企業殺人(故殺)法って知ってますか、などいろいろ興味深い話題がありますが、それはまたの機会に。>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>
和泉澤 衞先生、ありがとうございました!