2016年5月19日木曜日

【学問のミカタ】お金について~ マイナス金利など




みなさんこんにちは。
キャンパス内でも半袖で歩いている学生が増えてきました。
1年で一番過ごしやすい時期ですね! ただ、同時に「五月病」の時期でもあります。
楽しく健やかな毎日を送りましょう☆



現代法学部の第2回目【学問のミカタ】桜井 健夫先生に

「お金」をテーマに書いていただきました。
ではどうぞ!

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現代法学部で金融法分野(金融商品取引法、保険業法、保険法、資金決済法、手形法、小切手法、電子記録債権法など)を担当している桜井です。

今回はお金の話。マイナス金利の話と消滅通貨の話をします。

【マイナス金利】
日銀のマイナス金利政策の影響で、金庫が売れているそうです。マイナス金利・・・。
不思議な言葉です。金利という言葉自体にプラスの数値という前提があるので、これは矛盾としか言いようがありません。


2016年1月29日に日銀が決定したマイナス金利政策では、銀行が日銀に預けている預金に利息がつかず、逆に預け賃が発生することになります。日銀に預ければ預けるほど損になるようにして、そのお金を貸出しや投資に回させようという景気対策です。
これに対し、顧客が銀行に預けている預金の金利は、現状ではほとんどなくなるだけで(!)、マイナスになることはありません。日銀の金融法委員会も、銀行預金の金利は、消費寄託という契約の性質からも預金約款の解釈からも、マイナスにはできないと解釈するのが合理的であると2月に発表しています。http://www.flb.gr.jp/jdoc/publication49-j.pdf


 
 
ただし、これは現状の預金約款(預金者と銀行の契約内容となります)を前提とした解釈です。もし預金約款に、変動利息条項に加えてマイナス金利を想定した明示の定めを入れれば、それらの定めは有効となります。民事法の世界には「契約自由の原則」というものがあり、消費寄託に関する民法の規定と異なる契約をすることも原則として自由※だからです。金融法委員会も同様の指摘をしています。

 
※ 民法は、利息付の消費寄託について貸主が金利を支払うこと(当然プラスです)を前提としています(民法666条、590条)が、これと異なる契約をすることは自由。
たとえば、「適用金利が負の値となった場合、預金者は、利払日にその絶対値を用いて計算される利息相当額を銀行に支払う。」と預金約款を変更すれば、預金者が銀行に金利を払うことになります。そうなると、預けると減ってしまうので、金庫に入れておいた方がましだということになります。金庫が売れているという話が、そこまで見越した動きだとは思いませんが・・・。
【消滅通貨】
 マイナス金利をさらに一歩進めた制度に「消滅通貨」というものがあります。「自由通貨」、「スタンプ通貨」、「老化する通貨」などともいいます。時間の経過とともにお金が老化し減っていくのです。
「ネバー・エンディング・ストーリ―」や「モモ」などの作品で有名な作家ミヒャエル・エンデ(1995年没)。その生前のインタビューなどで構成される『エンデの遺言 根源からお金を問うこと』(河邑厚徳+グループ現代、講談社2011年))に、お金についてのエンデの考えが紹介されています。毎月、額面の一定割合(例えば1%)ずつ減っていく「消滅通貨」を作って流通させるという、シルビオ・ゲゼルの通貨構想にエンデは賛同しています。実際に1930年代にドイツやオーストリアの地域で「消滅通貨」の一種がつくられ流通したことがありますし(国家に潰されました)、その後も欧米の地域で何度となく作られたことがあります。
「消滅通貨」は決済のためのもので、蓄積にはむいていません。金利を生まないどころか、持っていると減ってしまうからです。「現金」の形で持っていても減ってしまうので、マイナス金利政策よりもはるかに資金循環を促進します。すぐ遣ってしまうので、金庫はいらないでしょう。