食品偽装はお客さんが気づくのは難しいですよね、もしお寿司屋さんに行って「大間のマグロ」を注文しても、美食家ではない現法さんは、本当に「大間のマグロ」を食べているかわからないと思います。「これだけの値段を払うんだから大間産に違いない!」と思って食べるわけです。私たちはお店の伝統、評判、表示、価格などで信用するしかありません。
万が一「変だなぁ」と思っても、日本人的発想だと「今日だけ味が違うのかな」とか思ってしまいそうです。
しかし有名ホテルでも老舗の料亭でも、食品偽装が繰り返されます。さすがに日本ですから、段ボールをひき肉だといって提供する店はないでしょう、食べて害があることはない範囲の産地偽装ですが、それでも、「美味しい!さすが伊勢海老!」なんて言いながら食べたものが、「実はロブスターでした」とニュースで放送された日には、お金の問題もありますが、それよりもなんだか悲しくなると思います。あと、褒め称えた自分がちょっと恥ずかしい…
偽装表示がバレてネットに流れると、これから先もずっと残ってしまうわけで、そのほうがお店にとっては痛手ではないのかなと思います。それなのに、「どうして偽装をするんだろう」「なぜ簡単に偽装表示ができてしまうんだろう」と思ったときに、
「きっとこれは法律に問題があるのでは」
と考えた現法さんは、現代法学部のシラバスを調べたところ、「広告・表示と法(和泉澤 衞先生)」という授業がありました。シラバスはこちら⇒「広告・表示と法」2013年度シラバス
和泉澤 衞先生は、島田長老によると、以前は「公正取引委員会」に勤務され「表示課長」をされていた、この頃に知り合ったんだよーとのこと。今回は和泉澤先生にこの問題について聞いてみました。
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先生: そうですね。でも、皆さんは、東京『経済』大学の『現代』法学部ですから(かぎカッコに妙に力が入る!)、根っこのところからお話ししましょう。表示や広告というのは、企業と消費者の間のコミュニケーションですからね。
現法さん: コミュニケーション?(内心、こりゃ長くなるかもしれないと構える)
先生: 簡単にいうと、そのプロセスの要素は、①送り手(センダー)、②受け手(レシーバー)、③伝達の中身(メッセージ)の3つだけ。メッセージとは情報ですから、人間の五感で認識できるものなら何でもOK。普通は、視覚や聴覚によるものが中心ですが、例えば、焼き鳥屋さんの美味しそうな匂いに誘われて…ついフラ~っと入店、というのもそのメッセージを受けての反応・行動ですよね。
送り手を企業、受け手を消費者、メッセージを表示・広告、と当てはめると分かりやすいです。我々消費者は、個々の商品やサービスの内容・品質などの情報をその製造販売業者ほど知っていません。そこで、消費者は、何を買おうかな・どれにするかなといった商品選択をするとき、メッセージ(表示・広告)を頼りに判断するということになります。
現法さん: 情報の非対称性ですね(そうか、不完全情報の経済学が入口かぁ。うまく相槌が打ててよかったぁ)。
先生: さあ、そのときの一般消費者の認識はどうでしょうか。通常、そのメッセージ(表示・広告)から受ける印象どおりのものと考えたり期待したりしますよね。実際、企業が売る商品・サービスがそのとおりのものであれば何の問題もありませんし、かえって消費者の適正な商品選択にとって好ましいことです。なお、以下、企業が売る「実際の商品」と略称します。
ですが、そのメッセージから受けた消費者の印象・認識と実際の商品との間に大きなギャップ(え~っ、こりゃ違うじゃないの!ということ)があったら、感情論からすれば「嘘つき」、法律論からすれば「『誤認』ということで消費者の商品選択をゆがめる行為は、自由経済体制にとって害悪」ということになります。消費者は、国民経済や自由経済市場において、買い手という重要・不可欠なメンバーなのですからね。
現法さん: 偽装表示とか虚偽誇大な広告表示とかは、単に「嘘はイケナイ」ということだけじゃなく、経済や法律にかかわってくることなのですね。ところで、どんな法律にどう違反するのですか。(早く、法律論に入ってよ~)
先生: いい質問ですね~。単純に嘘はイケナイという法律があったら、我々全員、違反行為者!になっちゃう・笑。そこで、商品やサービスの取引(販売・提供)に関してというシボリが必要。そして、この世の中、多様な商品・サービスがありますから、それら全部を対象とした「一般法」と特定の商品等に限った「個別法(業法)」とに分かれる。
虚偽誇大な表示・広告を全般的に扱う一般法としては、景品表示法(正式名称は、不当景品類及び不当表示防止法・昭37法134号)があって、消費庁が所管しています(都道府県でも運用されている)。行政庁が、被疑情報の収集
→ 必要な調査 → 措置(排除命令等)を行うほか、業界に適正表示のための自主基準を作成させるなどをしています(公正競争規約制度)。不当表示に対する適用法条は同法4条で、一流百貨店が仕入れをよく確認しないで「カシミヤ100%」と広告表示してしまった違反事例などもあります。
これ以外の一般法としては、手続は行政ではなく民事・刑事のものですが、不正競争防止法・平5法47号があります(法律番号は若いが昔からある法律)。例えば、極めて悪質な事案に対する刑事罰ということだと、こちらになります。ミートホープ事件(ニセ100%牛肉ハンバーグ。刑法・詐欺罪も適用)やウナギ産地偽装事件などがあります。
どう違うかって?
一言でいうと、要件として、景品表示法は消費者に「誤認される」で、不正競争防止法は「誤認させる」ということです。すなわち、前者・景品表示法の場合、うっかりミスでしたとかそんなつもりじゃなかったという言い訳は通用しな~い。実際の商品はそうじゃないのに、企業が発した当該メッセージ(表示・広告)によってあたかもそうなんだと一般消費者に誤認されてしまえば、アウトということにもなってしまう。ですから、企業側としては、表示・広告で消費者にメッセージを送るには相手の立場も考えて、十分な内部チェック等が必要ということなのですよ。企業のコミュニケーション能力だし、信用を高めるコンプライアンス(法令遵守)体制の問題でもあります。その意識が低い企業というのは、消費者にとっても迷惑ッ。これは、就活じゃなく、就職してから大事になる話だから、忘れないように。なお、後者(刑事罰)については、故意・意図は必要ですよね。
現法さん: 簡単に、個別法とかは?(そろそろ終わりにしましょうよ~)
先生: これが笑っちゃいましてね。確かに過去その必要があって各種の個別法が制定されたのでしょうが、所管官庁ごとのタテ割りというかタコツボ状態で、小六法に載っていないのが沢山ある。農林物資だけを対象としたJAS法、健康や安全性だけからみる食品衛生法・健康増進法・薬事法、経産省ものでは家庭用品品質表示法・消費生活用品安全法・電気用品安全法(何がどう違うの?!)、販売方法という切り口の割賦販売法・特定商取引法、景観の面からは屋外広告物法、業法の中に表示・広告の条項が入っているものとしては宅地建物取引業法(不動産広告)など、枚挙にいとまがない。まぁ、消費者サイドからみると、ぐちゃぐちゃのデコボコではなく何とか統合・統一できないのという気持ちになりますよね(昔、霞が関の役人をしていた時代、行政側!の自分自身もそう思った)。なお、各種の法律の細かい話は、授業で。
最後に、新しい情報を一つ。消費者向けの食品表示について、やっとそれを一元化する法律ができた(食品表示法・平25法70号。施行は、多分、来年の春から)。これは、JAS法・食品衛生法・健康増進法の食品表示に関する規定を整理・統合したもので、消費者にとっても企業にとっても、これまでのバラバラの規制ではなくこの1本に集約されるという点で朗報ですね。あ、オマケの情報。景品表示法の違反行為に対してペナルティ金を国庫に納付させる「課徴金制度」を導入すべきではないかという検討も、内閣府の消費者委員会で、つい先日の2月6日からスタートしています。今後どうなっていくか楽しみですね。
現法さん: ありがとうございました(へ~っ、法律って実社会に出てからが大事なんだな~)。
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いかがでしたか?現法さんに分かりやすいよう説明してくださいました。直近のホットなネタまで提供していただきました。和泉澤先生ありがとうございます!
「もっと深く知りたい」という人は、是非和泉澤先生の授業を履修してみてくださいね。
ちなみに「広告・表示と法」は2014年度は1期木曜1限です。
(え~1限!!という声が聞こえてきそうですが・・・頑張って!)
ではまた次回。